「死者を統計にするな」
と、直木賞選考委員の井上ひさしさんが仰ったそうです。
殿と、同じことを言ってる・・・・
「死は、誰にでも平等に訪れる」
この言葉に嘘はないけど、
やはり疑問が、生まれる。
この世に生れ落ちて死ぬまで平等なんてありえないんじゃないか?
そんなことも、投げかけてくる映画
「わたしは貝になりたい」
見てまいりました。

 興行収入とか評判とか・・・
そういう瑣末なことに捕らわれて、
第1回目を見てしまったこを後悔。
そういうものをとっぱらって見ると、
思わぬところで、じわっと来る映画です(笑)
 人間の記憶って、本当に曖昧。
え?このシーン、こんなに長かったんだ?
とか、へ~~~っ!!??こんなこと言ってたんだぁ?
とか、取りこぼしの多さにビックリ。
映画って2回は見なくちゃ、語れないなあ・・・
DVDのように巻き戻せないから(笑)

 面会シーンの房江舐めの豊松は、
素晴らしく美しい。
いやあ、これ、何?
これを、仲間ちゃん、独り占め?
ずる~~~い!←(邪な鑑賞者)

 わたくしは、矢野中将が嫌いです。
彼は、曖昧な言葉を使ってはいますが、
曖昧な命令など出してません!
「命令!直ちに捕縛」瞬時、逡巡の後、
「適切な処置をせよ!」
その、一瞬の言葉の選択の迷いが
殺せ!と言外にゆうてます。
その前にB29の本土攻撃に、
焦土と化す日本に涙しているので、
冷静な命令を阻んだのであります。
そして、彼は法廷で
「わたくしは、曖昧な言葉は使ったが、殺せ!とは言ってません」
と、証言するのです。
この証言がなければ・・・・
と、悔やまれて仕方ありません(笑)

 そして、
教誨師との最後の晩餐。
もう数時間後には、呼吸を止めてしまう人間に
「生まれ変わったら、何になりたいですか?」
と、教誨師は穏やかに問います。
嘘だ!
こんな質問できるはずがないっ!
生まれ変わらなければ、未来の描けない人間に
何て残酷な質問を投げかけるのだろう?
そして、問うた人間は、大方の答えを期待している。
「戦争のない国で、もう一度、愛する家族と暮らしたい」
だけども、あまりに残酷な質問に、
豊松は、心を硬化させ、思わぬ言葉を紡ぎだす。
「金持ちになりたい・・・・」

 そして、あの一点を見据える豊松の目に
我々は、身をすくませる。
あれは、人間を憎む目だ!と監督は仰るが、
わたくしは、生への執着と捉えたい。
生まれ変わりたいんじゃない、このまま、
生きて帰らせてくれ、房江の元へ。
生きて、家族と幸せに暮らしたい。
だから、最後に、
「どうしても、生まれ変わらなければならないのなら・・・」
と、前置きしてから
「私は、貝になりたい」と結ぶのだと思う。

 どうしても生まれ変わらなければならないのなら・・・
生まれ変わりたいものなどないけれど、
それでも、生まれ変われというならば、
なんら束縛されない海底の貝にでもなりましょう。

 生まれ変わりたいんじゃないっ!
今すぐ、房江の元に帰りたい。
僕は死刑になるようなことは、やっていない!
絶命の瞬間、
そんな悲痛な豊松の声を聞いたような気がしました。

 ブランと垂れ下がった豊松の手から
ハラハラと落ちる家族の写真に、
涙が止まらないわたくしでございました。
 ああ、また見殺しにしてしまった・・・
そんな罪悪感を払拭できない、哀しい物語は幕を下ろすのでした。
戦争って奴は、幾千の哀しいドラマを生みました。
「死を統計にするな」
何とも、重い言葉でございます。

 さぁて、今宵もWBC。
胃が痛くなる試合展開となるのでしょうか?
できたら、「スマスマ」までには、
決着をつけて欲しいものです(笑)
それでは、お仕事さ、行って参ります。じゃあ、またね。


 



コメント

nophoto
jk笠井
2009年3月9日13:27

まるちゃん様。折角忘れる事はできませんが、日々思う事が少なくなって来た様に思っておりましたのに、いっぺんにまたあの世界に返ってきて  しまいました。一々納得出来るだけに、まるちゃん様の日記を読ませて頂いただけで、なみだ がとまりません。ごめんなさい。また後でおじゃまさせてください。

KAORI
KAORI
2009年3月9日17:59

まるちゃんさま
“おくりびと”(観ていませんが)に関する記事に、死は究極の平等、とあるのを見てから、ずっと豊松さんの最期を思い出してました。
今日の朝日新聞の社会面に、見えぬ死刑囚の最期、の記事と刑場の写真が出てたのを読んだばかりでした。
まるちゃんさまの日記読ませていただいてまた涙が出てきました…。
私もあの眼は生きる事への執着と捉えたいと思っています。

さらさ
2009年3月9日18:40

まるちゃんさま
心からの共感の拍手を送らせてください。
私は、豊松の周りの人が皆、恨めしく憎らしく思えてなりません。
矢野中将と悔悟師なんて特に。
うまく書けませんが、いつか私もがっちり恨み節を言いたいと思っていました(笑)
死は不平等ですよね。本当に生まれる前にそれを引き受けてきたのだろうか。
豊松は房江に逢うために生まれたのかもしれないけど、それにしてはかなしすぎます

ユーリ
2009年3月9日19:17

まるちゃんさま
私の日記へのコメントどうもありがとうございました。
昨秋から今冬にかけてスクリーンを前にして、どうしても沸き起こってくる感情を思い出しました。
私も矢野中将のどこが「立派」なのかわかりません。
(彼の行為のモデルであろう岡田中将はまた立派すぎましたが(苦笑))
そして上川さん演じる教誨師ですが、
ジャイさん「豊松の死に誰も涙を流さないのはかわいそう」と彼に涙を流させましたが、私はそれはどうでしょう?と思っております。

ただ、「おくりびと」という映画そのものは
「死は平等に訪れる」などとは言っていませんから。
(あえて言うなら「誰もが死ぬ」というところでしょうか)

nophoto
笈野
2009年3月10日0:49

こんばんは、まるちゃん様、初めまして。
毎日、楽しみに拝見しています。

私は、豊松さんの死の直前のあの眼が「人間を憎む」思いを
表している・・・というのに、ずっと違和感を感じてました。
まるちゃん様の「生への執着」のお言葉を読んで、すとん、
とその違和感が解かれた気が致します。
「遺書」を書いているその瞬間も、狂おしい生への希求が
豊松さんの胸に吹き荒れて・・・。その想像を絶する葛藤が、
あの眼から迸り出ていた、と思うと、得心が参ります。

そう思ったら他の皆さまと同じように、再び泣けてきました。

まるちゃん
2009年3月10日10:54

jk笠井様
お久しぶりです。
あの映画は泣けます。
「かわいそうなゾウ」「ミューツーの逆襲」「わたしは貝になりたい」
3大泣けるお話となりました(笑)

まるちゃん
2009年3月10日10:57

KAORI様
わたくしも、新聞を見ていて、
ハンセン病の隔離施設の記事を発見。
その扱いの凄まじさに、涙ぐんでしまいました。
世の中には、想像を絶する不平等がありました。

 「私は貝になりたい」
本当に、色々なことを考えさせてくれた
殿の贈り物に感謝でございます。

まるちゃん
2009年3月10日11:00

さらさ様
わたくし、本当に矢野中将の描き方に反吐が出ます。
あんな曖昧な言葉を使って、殺せ!と命令しておいて、
正義感のかたまりのように
「罰せられるのは、わたくしだけでいい」
当たり前じゃねーか?
と、ついつい思ってしまうのです。
わたくしは、本当に器の小さい人間です(笑)

まるちゃん
2009年3月10日11:03

ユーリ様
おう、なるほどぉ・・・
「誰もが死ぬ」
それなら、共感できます。
これだけは、平等です。
その死に方云々は、関係なく「誰もが死ぬ」
了解(笑)
 5月に、わが町の文化ホールで、「おくりびと」を
やってくれます。
やっと見られそうです(苦笑)
あっ、そのころは、DVDとか出てるのかなあ・・・

まるちゃん
2009年3月10日11:12

笈野様
コメントありがとうございました。
初めまして、まるです。
好きな言葉、執拗(笑)
 わたくし、この「貝」ちゃんと受け入れるために
う~~~んと、回り道しました。
日本の戦争映画を、総当り。
いっぱい見て見て見まくりました。
やっと、折り合いがつきそうです。
でも、まだ、しっくりこないので、
再び追求の旅に出そうです(笑)
「模倣犯」の旅は、未だにつづいています。←(しつこい)

 狂おしいまでの生への執着。
と、理解したい願望ですね。
「貝」になんかなってちゃダメなんです(苦笑)

nophoto
りな
2009年4月1日16:05

これって高田純次さんに関係ないんじゃ・・・

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